全国の会が、「朝日新聞」社説「消費増税なしに安心は買えぬ」について、
朝日新聞東京本社へ申し入れを実施

 消費税をなくす全国の会は12月26日、朝日新聞が、12月9日付朝刊の社説で「消費増税なしに安心は買えぬ」をかかげたことに対して、梅村早江子事務局長、増本一彦常任世話人らが、直接、朝日新聞東京本社を訪ね、申し入れを行いました。
 申し入れには、大軒由敬・論説副主幹が応対し、「財政が大変な中、福祉国家の20年後を見据えた」と述べる一方、「みなさんの申し入れについてはわかりました」と話しました。
 申し入れ書は以下の通りです。


朝日新聞東京本社 御中

2007年12月9日付朝刊社説
「消費増税なしに安心は買えぬ」に関する申し入れ書

2007年12月26日
消費税をなくす全国の会

1 私たち消費税をなくす全国の会は、1990年の結成以来、逆進性が強く、毎日の暮らしに重い負担となる「大型間接税」である消費税はなくすべき税金であり、ましてや増税などとんでもないと運動をすすめている、個人加盟の市民団体です。
 私たちは全国各地で「消費税をなくす日まで、消費税反対の気持ちを持ち続け、その気持ちを広げましょう」と活動して、今年12月13日現在、会員数は144万人を突破しております。

2 さて、今日、基礎年金の国庫負担分を2分の1に引き上げる財源問題を契機に、「消費税の社会保障目的税化」が税・財政論議の焦点になっております。
 この問題は、国論を二分する重要問題であって、貴社の世論調査でも、「たとえ社会保障財源であったとしても、消費税増税には納得できない」と考える人が54%にのぼっております。
 こうした情勢のもとで、私たちは、貴社が「希望社会への提言」をシリーズとして取り上げられ、12月9日には、「消費増税なしには安心は買えぬ」の社説を掲載されて、現行水準の福祉サービスを守り抜く「安心勘定」の財源として「消費税を中心とせざるを得ない」「いずれは消費税が10%台になることを覚悟するしかあるまい」と表明をされたことを極めて遺憾に思います。

3 社説は、「消費税は国民が広く負担する税金だ。国民みんなが互いの生活を支え合う社会保障の財源に適している」といわれますが、社説がいう「消費税の副作用」である「逆進性」は税率が高くなればなるほど強まり、複数税率を採用しても、現在でも高負担感をぬぐえない「日常の生活必需品は5%に据え置く」のですから、「コメや小麦粉は非課税」としても、社会保障の恩恵を受けるべき低所得者への消費税増税による重負担は避けられず、「消費税の副作用」はより大きなものになるのではないでしょうか。
 社会保障は「富と所得の再配分」という福祉国家理念にもとづいて行われるべきものであって、その財源も「富と所得の再配分」に相応しい税源によるべきではないでしょうか。

4 社説は、「消費税を引き上げるだけではなく、直接税も強化していく」とされておりますが、今、必要なことは、社説でも触れられている「所得税」と、社説に触れられていない「法人税」の、せめて1999年「税制改正」以前の税率に戻すことではないでしょうか。
 ご承知のように、国際競争力強化を目的にした1999年「税制改正」によって、所得税の最高税率50%・税率構造5段階が、最高税率37%・税率構造4段階になり、法人税も標準税率が34.5%から30%になりました。 その結果が、社説でもいわれる所得税の税収も、社説には触れられていないが法人税の税収も、ともに極端に減少し、今日の歳入欠陥の主要な原因になっているのです。
 社説でもいわれる相続税についても、社説の主張に逆行するような先の相続税率の上限の緩和ではなくて、「富の再配分の強化」が求められるべきでしょう。
 国民は、これらの事実に、高額所得者・大資産家と大企業優遇の実態を見て、そのツケを国民にまわす消費税増税に強い反対の態度を示しているのです。
 現在、政府が消費税増税の根拠の一つとして取り上げている「基礎的財政収支の改善」も、超高額所得者に対する所得税増税と大企業に対する法人課税の強化によって行うことが肝要ではないでしょうか。

5 社説は欧州諸国の付加価値税の最高税率を挙げて、わが国も10%台への消費税増税の根拠とされるのですが、欧州諸国の税収全体に占める付加価値税収の割合は20数%台であって、地方消費税を含む税率5%、課税対象が「財とサービスの移転」の99%近いわが国の消費税が10%台に跳ね上がったときには、欧州諸国とは同日には論じられない深刻な「副作用」をもたらすでしょう。
 また、わが国は輸出傾斜の産業構造によって、大企業の「輸出戻し税」の還付額も巨額にのぼり、その規制をしないと「輸出戻し税」還付額は税率が上がるにしたがい比例して増大するのです。この「輸出戻し税」に対しても、国民は大きな不信感を抱いているのです。

6 社説は消費税の増税分を「社会保障目的」とするとされて、「現行水準の福祉サービスを守り抜く」というのですが、現行の5%のうちの国税4%は一般財源に、増税分は目的財源にするということなのでしょうか。
 社説のいわれる社会保障に必要な税率にして6、7%の増税分には、地方消費税を含まないとすると、現行制度のもとでは6、7%の25%に当たる地方消費税分が上乗せされて税率は8%前後、合計13%前後になるということで、「地方への消費税の配分を増やす」といっている政府与党の動き如何では、もっと大きな税率アップの導火線にもなるご主張です。
 これは、所得格差が大きな広がりを示している国民生活を考えますと、「現行水準の福祉サービスを守り抜く」か「低福祉で我慢する」かの『悪魔の選択』を国民に提示することになりませんか。

7 国民は日本国憲法の謳う平和な福祉国家の実現を望んでいるのです。
 社会保障財源を消費税に求めることは、消費税の「副作用」を拡大し、現在の社会保障財源にまわっている税収が別の費目の財源に、例えば軍事費(防衛費)の財源や更なる大企業と超高額所得者減税財源になったり、大型プロジェクト公共事業費にまわったりすることにもなって、ますます憲法の福祉国家理念から乖離したものになるのではないでしょうか。
 私たちは、「現行水準の福祉サービスを守り抜く」ための消費税の社会保障目的税化が、却って福祉国家の実現を望む国民の願いに逆行することになることを深く憂慮します。
 朝日新聞が他社と異なって、現行憲法の改定の旗持ちをしたりせず、国民の良識を示す努力をされて来られた過去の実績を省みるとき、今回の社説のご主張は極めて遺憾であると申さざるを得ません。
 新聞は、新聞社と読者相互の対話と討論によって作られて行くべきものです。
 特に、今日の税・財政問題は、国民的な重大関心事であり、誠実に議論すべきであると思います。
 この立場から、今回の社説に対して、一言申し入れを致す次第であります。
以上