〜小さな勇者達の詩 後編〜




ブシャッ!!
屋敷の1階の最も奥にある部屋の前。
気味の悪い音を立て、ゾンビが1体、無数のゾンビやスケルトンの残骸が転がっている廊下に崩れ落ちた。
「ふぅ……これで全部かな?」
レオが額を拭いながら言った。
「多分な。 あ〜あ、服がグチャグチャじゃねぇか。
 臭い落ちねぇぞ、コレ」
ゾンビの体液やら腐肉やらが付着した体を見回しながらぼやいたのはリン。
だいぶゾンビやゴーストに耐性ができてきたようで、恐れた風もなく、崩れ落ちたゾンビに蹴りを入れている。
「ぼやくなよ。 俺達だって同じだ。
 それより早く部屋に入るぞ」
そう言って、ラップは目の前の部屋のドアノブに手をかけた。
そして、ゆっくりとノブを回し、部屋の中を油断なくのぞき込む。
部屋の中は朽ち果ててはいたが、別段、変わった所はなかった。
大きな屋敷にありがちな曲線を描く椅子やテーブルなどに、飾り用の鎧が飾ってあるだけの客室。
ラップは中が安全な事を確認すると、慎重に部屋の中に入っていった。
レオとリン、そして、3人の屋敷探索についてきた、アストライアと名乗った少女のゴーストも一緒に部屋の中に入っていく。
部屋の中に入ると、4人は思い思いに部屋の中を調べ始めた。
天井・床・壁。
調度品が邪魔な場合は、それ等をどかして調べた。
しかし、特に変わった所はない。
4人はやや落胆気味に部屋を出た。
「う〜ん、ないね、魔陣」
部屋を出てすぐ、レオが呟いた。
それを受けて、ラップが溜め息をつきつつ、言う。
「そうだな……どこか見落としがあったのかも……」
「じゃ、また最初から探し直しか? ……はぁ〜……」
大きく溜め息をつくリン。
見た目以上に広い屋敷で、魔陣を探す事、およそ3時間。
4人は屋敷の部屋という部屋を調べ回っていた。
その間、何度もゾンビやスケルトンに襲われ、レオ・リン・ラップの疲労もピークに達している。
「……ごめんなさい。 私のために……」
リンの溜め息に、心底申し訳なさそうにアストライアが言った。
「あ、いやそういうわけじゃ……」
慌ててリンが取り繕う。
気まずい雰囲気が漂う。
その雰囲気を払うように、レオがアストライアに尋ねた。
「ねぇ、アストライア。 部屋はここが最後?」
すると、アストライアは静かに首を横に振った。
「ほかにも部屋があるのか?」
今度はラップが問いかける。
「ええ。 屋敷自体の部屋はここが最後だけど、中庭に地下室への入り口が……」
「じゃ、そこだな、間違いない。
 地下室なんていかにも怪しそうじゃねぇか
 行こうぜ、中庭に!」
気まずさを修繕するためか、やけに明るくリンが言った。
それを見て、アストライアが微笑んでうなずいた。
アストライアの笑顔を見て安心したのか、リンがご機嫌な様子で先頭を切って歩き出した。
そのあとを、アストライア・レオ・ラップが順についていく。
中庭に向かう道中、しんがりを歩くラップが、前をゆくレオに声をかけた。
「レオ、気付いたか?」
「? 何が?」
「廊下を見てみろ」
そう言われ、レオは廊下を見回す。
朽ちた床は所々に穴が開き、天井・壁もボロボロになっている。
典型的な廃屋の様相を呈しているだけで、特に変わった所はない。
しかし……
「……あ」
レオが何かに気付いたように、小さく声を上げた。
「気付いたか?」
「うん……ゾンビ達の死体がない……」
レオの言葉通り、それまで床に転がっていたはずのゾンビやスケルトンの残骸が、影も形もなくなっていた。
「……気をつけろ。 何かおかしいぞ」
ラップが辺りを油断なく見回しながら言う。
レオもうなずきながら、同様に辺りを警戒し始めた。
レオとラップの前をゆくアストライアも異変に気付いたようで、周囲を落ち着きなくキョロキョロと見回していた。
唯一、リンだけが異変に気付いていないらしく、上機嫌で先頭を歩いている。
それから程なくして、一行はゾンビ達に襲われる事もなく玄関ホールに辿り着いた。
「……ここにもゾンビ達の死体がないね」
「ああ」
ホールを見回しながら言ったレオの呟きに、ラップが相槌を打つ。
割れた窓から差す月明かりに照らし出されたホールには、ゾンビ達の残骸は1つもない。
まるで、レオ達3人が入ってきた時のように、ホールは静まり返っていた。
異常ともいえる静けさに、レオとラップは警戒を強める。
その手には、しっかりと抜き身のショートソードが握られていた。
「あそこが中庭の入り口よ」
不気味な静寂を破って口を開いたアストライアが指差したのは、玄関のちょうど真正面にある扉だった。
「よし、じゃ、行こうぜ!!」
リンが勢い込んで扉へと向かう。
そして、その朽ちかけた扉を勢いよく開け放った瞬間。
『!!?』
中庭の中央にあったモノに、4人は言葉をなくした。
「なんだよ……コレ……?」
力なく呟いたレオの声は、恐怖のためか嫌悪のためか、震えている。
だが、それも無理からぬ事であった。
4人の目に飛び込んできたソレは、小さな家ほどもある大きさの、巨大な腐肉の塊だった。
異様な臭気を辺りに撒き散らす肉塊からは、無数の骨や髪の毛と思しき物が飛び出ている。
「これは……」
呆然としたように、ラップがかすれた声で呟く。
「ねぇ……こんな奴、この屋敷にいたの……?」
レオに問いかけられたアストライアも、ただただ肉塊を見つめて首を横に振るばかりだった。
一方、リンは、目の前のモノが外見的にはただの腐肉の塊にすぎないからか、ゾンビやゴーストと相対していた時のように取り乱してはいなかった。
もっとも、それでも肉塊は、リンの嫌悪と恐怖を誘うに十分だったようで、リンは言葉もなく立ち尽くしていた。
「それで、地下への入り口は?」
「……あそこ」
ラップの問いに、アストライアが肉塊を指差し答えた。
「あそこって……まさか、アレの下?」
「うん……」
レオが聞くと、アストライアは小さくうなずいた。
「……とりあえず、近くに寄ってみよう。
 そうしない事には、どうにもならない。
 何が起こるか分からないから、警戒しろよ」
そう言って、ラップが肉塊へと近寄る。
ほかの3人も、そのあとに従い、肉塊へと向かって歩き出した。
と、4人がある程度、肉塊との距離を詰めた時、突然、肉塊の一部が蠢いた。
その刹那。
グビュッ!!
肉塊の一部が盛り上がったかと思うと、嫌悪を誘う音を立て、肉塊から大人の頭ほどもあろうかという腐肉の塊が、4人目掛けてすさまじい速さで飛ばされた。
『!!!』
グチャ!!
飛ばされた腐肉は4人をわずかにそれ、4人の立つ地面の近くに命中して、その周囲に肉片と臭気とを撒き散らした。
腐肉が命中した地面には、先端の尖った骨が、数本、突き刺さっている。
「やっべぇ……!」
それを見たリンが、青ざめながら呟いた。
再び蠢き、盛り上がる肉塊。
今度は複数の場所でその現象が確認できる。
「避けろ!!」
ラップが叫んだとほとんど同時に、腐肉の塊が四方八方に飛ばされる。
ある塊は地面に、ある塊は屋敷の壁に激突し、炸裂した。
レオ・リン・ラップの3人は、間断なく繰り出される腐肉を避けながら、肉塊の周りを動き回り、攻撃の機会をうかがう。
アストライアは、そんな3人と肉塊から離れ、屋敷近くの茂みに隠れた。
「くそ!! これじゃ攻撃もできねぇよ!」
リンが飛びくる腐肉をかわしながら悪態をつく。
レオも同様に、腐肉をかわす事に手一杯で、攻めあぐねていた。
ラップのみが、かろうじて肉塊に近付き、攻撃を加えている。
しかし、ショートソード程度の長さの武器では、肉塊の表面を薙ぐ程度で、巨大すぎる肉塊の前では、焼け石に水、といった程度のダメージしか与えられない。
「ダメだ! 剣じゃロクにダメージを与えられない!」
ダメージの薄さに気付いたラップが、剣に付着した腐肉を振り払いながら言った。
飛び退るラップを追撃するように、骨が数本、ラップ目掛けて肉塊から飛ばされる。
「チッ!!」
空中で器用に骨をかわすラップ。
「くそっ!! じゃ、どうすんだよ!!」
同じように飛んできた骨をショートソードで払いながら、リンが怒鳴った。
「何か、魔法のような、広範囲を攻撃できるものじゃないとダメだ!」
「そんなもの使えねぇよ!!
 ほかに何かねぇのかよ!?」
「ない!!」
「役立たず!!」
「うるさい!!」
「ねぇ、待って!!」
リンとラップのやり取りに、レオが口をはさんだ。
「何か燃える物はない!?」
「はぁ!? 燃える物!?」
レオの言葉にリンが聞き返す。
「うん、燃える物! 焚き木とか油とか……」
「……そうか、火か!!」
レオの考えを理解したラップが、叫んだ。
「そう。 あの肉の塊に火をつけるんだ!
 そうすれば――」
「危ない!!」
レオの言葉にアストライアの叫びが重なった。
その瞬間、
ドスッ!!
「うっ!!」
鈍い音と共に、レオの呻き声が。
『レオ!!』
リン・ラップが叫ぶ。
アストライアは、口に手をあて悲鳴をこらえている。
見れば、レオの太腿には、肋骨らしき先端の鋭利な骨が1本、突き刺さっていた。
刺さった部分からは血が滲んでいる。
「うぅ……!」
痛みに呻き、その場にうずくまるレオ。
そこへ、腐肉の塊が飛来する。
「危ねぇ!!!」
叫び、レオを突き飛ばしたのはリンだった。
腐肉の塊は、レオを突き飛ばしたリンの頭上をかすめ、地面にぶつかる。
「ダメだ!! ラップ!! 一旦、屋敷の中に逃げるぞ!!」
リンがレオを抱きかかえ、叫んだ。
レオはリンに支えられながら、骨の刺さった足を引きずるようにして屋敷へと向かって走る。
ラップも、腐肉をかわしながら、屋敷へと走った。


「大丈夫……?」
心配そうな顔でレオをのぞき込むアストライア。
「うん、大丈夫……」
若干、苦しげな笑みを浮かべながら、レオが答える。
太腿からは骨が引き抜かれ、薬草と包帯が巻かれていた。
飛びくる腐肉をかわしながら、なんとか屋敷内に戻ってきた4人は、負傷したレオの手当てをし、休息を取っていた。
肉塊からの攻撃は、4人が屋敷に入ったと同時にピタリとやんだ。
「どうだ? 様子は?」
窓から肉塊の様子をうかがっていたリンに、ラップが尋ねる。
「変化なし。 動く様子もねぇ」
そう言うと、リンは溜め息をつきながらその場に座り込み、
「なんなんだよ、ありゃ?
 あんなの見た事も、聞いた事もねぇぞ」
誰にともなく聞いた。
その問いに対し、ラップが少し考え込むような仕草をしたあと、答えた。
「多分、ここに巣食っていたゾンビやスケルトンの集合体だろうな。
 ここに戻ってくる途中、探索中に倒したゾンビやスケルトンの死体がなくなっていた」
「そんな事ありえるのかよ?」
「さぁ……でも、そうとしか考えられない……」
そこまで言うと、ラップは黙り込んでしまった。
重苦しい沈黙が流れる。
その沈黙を破って、リンが話を切り出した。
「で、どうすんだ? さっき言ってたけど、あいつに火をつけるんだろ?」
それを受け、レオが足の調子を確認しながら答える。
「うん。 それが1番効果的だと思う。
 だから、何か燃えやすい物があればと思ったんだけど……」
「ランプの油はどうだ?
 確か、予備がいくつかあったはずだ」
そう言うと、ラップはマントの内側を探り、油の入った瓶を取り出した。
取り出された油の瓶は、500ml程の物が3つ。
「これだけあれば、あいつに火をつけられるはずだ」
瓶を持ち上げ眺めながらラップが言った。
「うん、そうだね、十分だよ。
 じゃあ、1人1つずつ持とう。
 3人で一斉に投げつけたら、僕がランプを投げて火をつける。
 そしたら、またすぐに屋敷の中に逃げ込むんだ」
レオが作戦を立てると、リンとラップはうなずき同意した。
しかし、アストライアは不安そうな顔で3人を見ている。
それに気付いたレオがニッコリ笑って声をかけた。
「大丈夫だよ。 きっと上手くいく。
 僕達を信じて」
「……でも、あなた怪我をしているわ。
 それに、危険だわ。
 あんな物にまた戦いを挑むなんて……
 死んでしまうかもしれないのよ?」
レオの言葉に、アストライアは一層顔を曇らせて言った。
それに対し、3人が口々に言う。
「そんなに心配すんなよ。
 オレ達に任せとけばいいんだって」
「そういう事。 あんな肉の塊にやられたりはしないさ」
「さっきは1発くらっちゃったけど、今度は大丈夫。
 きっと君を助けてあげるから」
心配するアストライアに向けて言うと、3人はそれぞれ瓶を手に取り、うなずき合って中庭に抜ける扉の前に立った。
その後姿を見守るアストライア。
その手は強く、祈るように握り締められている。
「準備はいいか?」
ラップが言うと、レオとリンがうなずく。
「レオ、足は大丈夫かよ」
リンがレオの傷を見ながら言った。
「平気。 動けないほどじゃないから」
ぎこちないながらも足を動かし、レオは足の無事を示した。
そして、
「さぁ、じゃあ、行くよ!!」
レオの掛け声と共に、3人は肉塊の待ち受ける中庭に飛び出した。


肉塊が蠢く。
まるでその丸い腐肉のどこかに目があるかのように、3人が中庭に飛び出した途端、腐肉の塊を撒き散らし始めた。
その腐肉をかわしながら、3人がそれぞれ行動に移った。
「いいか! できるだけ近付いてから瓶を投げるんだ!
 遠くから投げるなよ! 肉を飛ばされて瓶を落とされるかもしれない!!」
そう言いながら腐肉を避け、ラップが少しずつ肉塊との距離を詰めていく。
「レオ! 大丈夫か!?」
リンが気遣わしげにレオに声をかける。
リンも瓶をしっかりと握り締め、肉塊へと接近していた。
「大丈夫だって!」
リンの問いかけにそう答えたレオであったが、怪我をした足をかばいながら動いているため、動きがぎこちない。
しかし、それでもなんとか腐肉をかわしながら、肉塊へと迫る。
「よし、いくよ!!」
肉塊との距離を2〜3m程にまで縮めたレオが一声叫び、手にした瓶を肉塊に向かって投げつけた。
バリン!!
小気味よい音を立て、瓶が割れ、中の油が飛び散る。
それとほとんど同じくして、
バリン! パリン!
2つの瓶が割れる音が中庭に響いた。
『レオ!!!』
リンとラップが肉塊から離れながら叫ぶ。
「これで……どうだ!!!」
レオが後ろに跳び退りながら、手にしたランプを肉塊目掛けて投げつけた。
ガシャン!!
ゴォォォオオオオオ!!!
ランプが割れ、中の火が燃え広がる。
それは肉塊に付着した油に燃え移り、火は炎となって、たちまちのうちに肉塊全体を包み込んだ。
夜空を焦がすような火柱を立ち昇らせ、炎が踊る。
肉塊はもがくように、その腐肉でできた体を痙攣させながら、なす術もなく炎に焼かれている。
3人は、肉塊に火がついたと同時に、素早く屋敷の中に逃げ込んでいた。
屋敷の中は、中庭に生まれた巨大な炎に照らされ、オレンジ色に染まっていた。
戻ってきた3人を、アストライアが心配そうに見つめる。
「……大丈夫?」
問いかけるアストライアに、レオが息を切らせながらうなずいた。
「……外は、あいつはどうなってる?」
床に座り込んで、同様に肩で息をしているラップが、アストライアに尋ねた。
アストライアは窓の側により、外をのぞき見る。
「……燃えてるわ。
 さっきよりも少し小さくなったみたい
 動き出す様子は……ないみたいね」
「なら、あとはあいつが燃え尽きるのを待つだけって――」
「待って!」
言いかけたリンの言葉をアストライアが遮った。
「様子が変よ。 なんだか段々膨らんできてるような……」
「なんだって!?」
そう言ってラップが窓の側に駆け寄る。
炎に包まれた肉塊は、確かに膨張していた。
炎はさらに勢いよく燃え盛り、それにつれて肉塊も徐々に大きく膨らんでいく。
まるで風船のように膨らんでいく肉塊を見た途端、ラップの顔から血の気が引いた。
「まずい! あのままだと爆発するぞ!!
 皆、ここから離れるんだ!!」
血相を変えて叫ぶラップの言葉に、レオとリンは素早く反応し、中庭と反対側に向かって走り出した。
ラップのそのあとを急いで追い、アストライアも同様に3人のあとを追った。
そして、4人が玄関を抜け、正面の庭に出た瞬間。
ドゴオオオォォォォォォン!!!
『!!!』
大地を揺るがすほどの大音響と衝撃が辺りを襲う。
アストライア以外の3人は爆風に押され、屋敷の門近くまで吹き飛ばされた。
「……ぃっつぁ〜……オイ、大丈夫か!?」
地面に叩きつけられたのか、腕をさすりながら体を起こし、脇に倒れている2人に向かって問いかけるリン。
「……ん……あぁ、大丈夫だ」
「……僕も、なんとか……」
ラップとレオが答えながら、起き上がる。
「アストライアは?」
「私も大丈夫よ。 ゴーストだしね。
 それより見て」
そう言ってアストライアが指差した先には、爆発によって破壊された屋敷が。
壊れた屋敷越しに見える中庭には、肉塊の姿はどこにもない。
「……屋敷、壊れちゃったね」
「気にしないで。 もともと壊れてたようなものだし。
 さぁ、地下室へ行ってみましょう」
アストライアは屋敷が壊れた事を気にした様子もなく、3人をうながすと、爆発でえぐれた中庭へと向かった。
壊れた屋敷に近付くにつれ、爆発の凄まじさが伝わってくる。
屋敷は中庭を中心に大きく破壊され、ほとんど原形をとどめていない。
かろうじて残っていたのは、爆発とは反対側の壁のみ。
その壁にしても、少し強い衝撃を加えれば、一気に崩れてしまいそうな様子だった。
中庭はさらにひどく、生えていた草木は残らず吹き飛ばされ、地面の表面は平らにならされている。
爆心地ともいえる肉塊のあった場所は、ほかとは比較にならないほどの衝撃を受けたようで、クレーター状にえぐられていた。
そして、そのクレーターの中心部分には、人がゆうに3人は入れるほどの穴が、ポッカリと口を開けていた。
よく見れば、穴の中には階段らしきものが見える。
「ここよ。 ここが地下室の入り口。
 爆発で入り口の扉が壊れちゃったみたいね。
 さ、調べてみましょう」
そう言うと、アストライアは階段を下りていった。
3人もそのあとに続く。
「……あ!」
地下室に入った瞬間、リンが声を上げた。
崩れ、土砂が入り込んだ地下室の石床には、不可思議な紋様が赤黒い光を放っていた。
リンが興奮したように、輝く魔陣に駆け寄る。
「こいつだ! 魔術所に書いてあった魔陣と同じだ!
 これが『絶え間無き怨嗟』の魔陣だ!!」
「じゃあ、これを消せば、アストライアの呪いが解けるんだね?」
「ああ!」
レオの問いかけに、リンが答えた。
「……アストライア」
ラップが、魔陣を見つめていたアストライアに声をかけた。
アストライアは、しばらく無言で、そしてやがてうなずくと、口を開いた。
「……殺されてから今まで、この日をずっと夢見てたわ。
 父と母のいる世界へ行ける事を」
夢見るような口調で、魔陣の上を通りすぎるアストライア。
そして、壁際で止まると、レオ達3人の方を振り返り、微笑みかけて、
「レオ、リン、ラップ。
 3人とも、ありがとう。
 今日あったばかりの私のために、ここまでしてくれて」
深々と頭を下げた。
「……いや、別に……なぁ?」
「あ、あぁ……」
「まぁ、当然の事をしたまでというか、なんというか……」
急に改まって礼を言われ、しどろもどろな様子で答えるレオ達3人。
その様子を見て、アストライアが微笑む。
3人も、顔を見合わせ、満足気に微笑んだ。
しばし流れる、和やかな沈黙。
その沈黙を破り、レオが口を開いた。
「じゃあ、そろそろ……」
「……ええ、そうね」
微笑んだままうなずくアストライア。
レオはショートソードを両手で持ち、下向きに構え、切っ先を魔陣に向けた。
「……あなた達の事、絶対忘れない。
 本当にありがとう。 小さな勇者さん達」
アストライアが言う。
その顔には、一点の憂いも悲しみもない、満面の笑みが。
そして、レオはショートソードを魔陣に突き立てた。
赤黒い火花を散らし、激しく発光する魔陣。
同時に、アストライアの全身を白い光が包んだ。
光は徐々に明るさを増し、目も開けていられないほどに眩く輝く。
やがて、光が消えると、そこには魔陣も、そして、アストライアの姿もなくなっていた。
「……行っちまったな」
「ああ、そうだな……」
今までアストライアがいた場所を見つめながら、リンとラップが呆然としたように呟いた。
奇妙な静寂が流れる。
「……じゃ、僕達も行こうか?」
石床からショートソードを引き抜き、2人に向かってレオが言った。
その言葉に、リンとラップが同時にうなずく。
そして、3人は地下室を出て、もはや何者もいなくなり、何者も集まる事のない、呪いから開放された崩れかけの屋敷をあとにした。
(……ありがとう……)
屋敷を離れ際、3人はアストライアの声を聞いたような気がした。

「そういえば、不思議に思ったんだけど」
街道を歩きながら、レオが唐突に口を開いた。
「どうしてアストライアが触媒に使われたのかな?
 恨みを買ってたのは、彼女のお父さんなんでしょ?
 それだったら、普通、お父さんを触媒として使うんじゃない?
 その方がよっぽど苦しいだろうし」
レオの疑問に、ラップが少し考えて答える。
「……多分、知らなかったんだと思う。
 この魔術の触媒となった人間が、魔術を解かれないかぎり昇天できないって事を。
 もし知ってたら、お前の言ったとおり、彼女の父親を触媒に使ってただろうし」
「魔術をかけた連中にしてみりゃ、触媒として使う人間は、誰でもよかったって事だろうな。
 この魔術を使えば、彼女の親父は間違いなく魔術に囚われて、死んでからも苦しむ事になるんだから。
 事実、屋敷の住人全員が除霊されるまで昇天できてなかったみたいだし」
リンが頭の後ろに手を組み、小石を蹴りながら言った。
「結局、彼女はとばっちりを受けて呪われてしまった、可哀そうな被害者だったって事だ」
ラップが、哀れみを込めて言う。
そんなラップとは対照的に、
「まっ、でもこれで彼女も昇天できたんだし、よかったんじゃねぇか?」
リンは小石を大きく蹴り飛ばして、嬉しそうに言った。
「それもそうだね。
 ……アストライア、向こうでお父さんとお母さんに逢えたかな?」
そう言うと、レオは空を見上げる。
抜けるような青空には雲1つなく、太陽が燦々と輝いていた。






終り