戦車室−3 昭和後期
三式中戦車 チヌ車
「一式中戦車」の車体に「九〇式野砲」を搭載した戦車で「一式自走砲」と併用することで、従来の「九七式中戦車(四十七粍砲搭載)」・「一式中戦車」・「一式四七粍機動砲」のトリオと並び、「国土決戦」での対戦車戦闘の切り札として期待された戦車である。
「三式中戦車」の最大の特徴は、従来までは「歩兵支援」が主眼であった国軍戦車の中で、はじめて本格的な「対戦車戦闘」を考慮した大口径砲搭載の戦車であり「砲塔」の旋回機構が、従来の「手動転把」とモーターによる「動力旋回装置」の2元となり、これらの併用によって、迅速な砲塔旋回ができることである。
主砲の搭載弾薬は70発であり、対戦車戦闘を主眼としているために「徹甲弾(一式徹甲弾)」50発/「榴弾」20発の割合で搭載しており、「徹甲弾」には従来の「一式徹甲弾」以外に、装甲貫徹力を増加した「徹甲弾特甲」が存在した。搭載機関銃は車体前方の「前方銃」と、対空戦闘用として砲塔上の対空銃架に装着する1門の合計2門の「九七式車載重機関銃」搭載している。
国土決戦では、装備優良の「戦車聯隊」に配備がなされ、10両で「砲戦車中隊」を編成して、「自走砲中隊」の6両の「自走砲」と共に本土に進攻する敵「M4中戦車」・「M1重戦車」に対する機動反撃の要とされた。
三式中戦車
昭和20年、九州の宮崎で進駐軍への引き渡しのために終結した国軍機甲部隊。かなりの数の三式中戦車が見える。
★三式中戦車データー
(昭和20年発行「国軍新兵器便覧」より)重
量 16.8トン(全備重量21.0トン)全 長 5731ミリ
全 幅 2334ミリ
全 高 2610ミリ
地上高 400ミリ
装 甲 車体前部 50ミリ
車体側面 15ミリ
車体後部 20ミリ
車体底板 8ミリ
砲塔前部 50ミリ
砲塔側面 35ミリ
砲塔斜後方 25ミリ
砲塔後部 20ミリ
砲塔上部 12ミリ
最高速度 38.8キロ/時
登坂能力 2/3
超壕能力 2500ミリ
徒渉能力 約1メートル
燃料搭載量 335リットル (主槽275 副槽60)
燃料消費量 11リットル/時
行動能力 約300キロ
携行弾薬 七五粍砲弾 70発(徹甲弾50発・榴弾20発)
機関銃弾 3680発
高低射界 +21°〜−14°
火砲初速 517.8メートル/秒(九〇式鋼銑榴弾)
乗 員 6名
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*以下の記述は飽くまでも「藤研」に於ける推定論です。飽くまでも参照程度に・・・国土決戦期の九州における戦車部隊とその配備状況
一般に「三式中戦車」の製造台数については、「日本兵器工業会」の資料による製造数である昭和19年55両・昭和20年111両の合計166両の説が流れているのみで真相は不明であるが、今回「藤田兵器研究所」では、軍作製の編成表(戦史叢書参照)を基に、編成上の数値より国土決戦期における「三式中戦車」を核とした在九州の機甲部隊の数値を仮算出してみた。
以下の「在九州機甲部隊一覧」の表に国土決戦準備のために、昭和20年4月6日の「軍令甲第六十二号」によって、九州に展開された本土決戦部隊のうち「機甲部隊」を列記し、さらに詳細の編成と装備数量を、その下に「在九州機甲部隊編成表」の名称で示してみる。
★在九州機甲部隊一覧
国土決戦期の九州には、戦車6個聯隊を核とする独立戦車旅団3個と、戦車1個聯隊と自走砲4個大隊を核とする機甲兵力が展開していた。
第十六方面軍−睦
独立戦車第十三中隊 鹿児島池田町
第三十七戦車連隊・第四十戦車連隊より抽出の軽戦車で編成した集成軽戦車中隊で第八十六師団に配属自走砲第八大隊 鹿児島川内市
第五十六軍−宗
独立戦車第四旅団 福島福丸
戦車第十九聯隊 福島福丸
戦車第四十二聯隊 福島新屋
機関砲隊 福島福丸
整備隊 福島直方市
輜重隊 福島小竹
戦車第四十六聯隊 福島福島町
自走砲第一大隊 福岡市
第五十七軍−鋒
独立戦車第五旅団 宮崎永森
戦車第十八聯隊 宮崎綾町
戦車第四十三聯隊 宮崎八代町
機関砲隊 宮崎森永
整備隊 宮崎高岡
輜重隊 宮崎高岡
独立戦車第六旅団 鹿児島川辺町
戦車第三十七聯隊 鹿児島由野
戦車第四十聯隊 鹿児島川辺町
機関砲隊 鹿児島川辺町
整備隊 鹿児島川辺町
輜重隊 鹿児島川辺町
第三十七戦車聯隊以外は第四十軍に配属自走砲第五大隊 宮崎住吉
自走砲第七大隊 宮崎都島
★在九州機甲部隊編成表 ・独立戦車第四・五・六旅団司令部編成
|
軽戦車 | 中戦車 | 装甲車 |
九五式軽戦車 | 九七式中戦車 | 装甲兵車 | |
司令部 | 2 |
3 |
2 |
司令部通信班 | 3 |
3 |
――― |
司令部合計 | 5 |
6 |
2 |
総合計 | 15 |
18 |
6 |
*「九七式中戦車」は原則として「九七式中戦車
(四十七粍砲搭載)」とする。
・戦車第十八・十九・三十七・四十・四十六聯隊編成
|
軽戦車 | 中戦車 | 砲戦車 | 自走砲 | 装甲車 |
九五式軽戦車 | 九七式中戦車 | 三式中戦車 | 一式自走砲ホニT | 装甲兵車 | |
連隊本部 | 1 |
3 |
――― |
――― |
――― |
中戦車中隊 | 2 |
10 |
――― |
――― |
――― |
中戦車中隊 | 2 |
10 |
――― |
――― |
――― |
砲戦車中隊 | 2 |
――― |
10 |
――― |
――― |
砲戦車中隊 | 2 |
――― |
10 |
――― |
――― |
自走砲中隊 |
――― |
――― |
――― |
6 |
4 |
作業中隊 | 1 |
――― |
――― |
――― |
8 |
整備中隊 | 1 |
2 |
――― |
――― |
――― |
聯隊合計 | 11 |
25 |
20 |
6 |
12 |
総 合 計 |
55 |
125 |
100 |
30 |
60 |
*「九七式中戦車」は原則として「九七式中戦車(四十七粍砲搭載)」とする。
・戦車第四十二・四十三聯隊編成
軽戦車 | 中戦車 | 砲戦車 | 装甲車 | |
九五式軽戦車 | 九七式中戦車 | 三式中戦車 | 装甲兵車 | |
連隊本部 | 3 |
3 |
――― |
2 |
中戦車中隊 | 2 |
10 |
――― |
――― |
中戦車中隊 | 2 |
10 |
――― |
――― |
砲戦車中隊 | 2 |
――― |
10 |
――― |
整備中隊 | 1 |
2 |
――― |
2 |
聯隊合計 | 10 |
25 |
10 |
4 |
総合計 | 20 |
50 |
20 |
8 |
*「九七式中戦車」は原則として「九七式中戦車(四十七粍砲搭載)」とする。
・自走砲第一・五・七・八大隊編成
長以下650名 一式自走砲(ホニU) 各12両
その他配属車両の詳細不明
・独立戦車第十三中隊編成
第三十七戦車聯・第四十戦車聯隊より抽出の軽戦車で編成した集成軽戦車中隊で、第八十六師団に配属 その他配属車両の詳細不明
・挺身第一戦車隊
「二式軽戦車」装備の部隊 その他配属車両の詳細不明
★在九州戦闘車両一覧表
|
軽戦車 |
中戦車 |
砲戦車 |
自走砲 |
装甲車 |
九五式軽戦車 | 九七式中戦車 | 三式中戦車 | 一式自走砲ホニT | 装甲兵車 | |
独立戦車第四旅団司令部 | 5 |
6 |
――― |
――― |
――― |
独立戦車第五旅団司令部 | 5 |
6 |
――― |
――― |
――― |
独立戦車第六旅団司令部 | 5 |
6 |
――― |
――― |
――― |
戦車第一八聯隊 | 11 |
25 |
20 |
6 |
12 |
戦車第十九聯隊 | 11 |
25 |
20 |
6 |
12 |
戦車第三十七聯隊 | 11 |
25 |
20 |
6 |
12 |
戦車第四十隊 | 11 |
25 |
20 |
6 |
12 |
戦車第四十六聯隊 | 11 |
25 |
20 |
6 |
12 |
戦車第四十二聯隊 | 10 |
25 |
10 |
――― |
4 |
戦車第四十三聯隊 | 10 |
25 |
10 |
――― |
4 |
総 合 計 | 90 | 193 | 120 | 30 | 56 |
上記の表は「独立戦車第十三中隊」・「挺身第一戦車隊」と「野戦兵器廠」・「野戦自動車廠」にある予備車両、及び「海軍部隊」の戦闘車両を除いたものである。
この上記の表に「一式自走砲−十糎砲ホニ−U」を各12両ずつ装備する4個の「自走砲大隊(配属の装甲兵車の数量は不明)」の戦闘車両を追加し、下記に「国土決戦期在九州主要戦闘車両一覧」を作製して示してみる。
またこの戦闘車両の仮計上においては、「一式中戦車」は「九七式中戦車(四十七粍砲搭載)
」に含まれ、同じく「九五式軽戦車(五七粍砲搭載)「四式軽戦車」?」等も「九五式軽戦車」とする。
★国土決戦期在九州主要戦闘車両一覧
兵 器 種 類 | 台 数 |
九五式軽戦車 | 90台 |
九七式中戦車 | 193台 |
三式中戦車 | 120台 |
一式自走砲−ホニT | 30台 |
一式自走砲−ホニU | 48台 |
装甲兵車 | 56台 |
最後に、昭和20年8月1日現在における第五十七軍の機甲車両の充足率を示した「第五十七軍概況調査表」を明記する。この表を見る限り、機甲車両の充足率はかなりのもので、九州での戦闘車両の充実さをうかがい知ることが出来る。
★第五十七軍概況調査表
S20.8.1第五十七軍司令部調製
戦車第五旅団 | 戦車第六旅団 | 軍 砲 兵 | ||||
定 数 | 現在数 | 定 数 | 現在数 | 定 数 | 現在数 | |
自 走 砲 | 6 |
6 |
6 |
6 |
24 |
0 |
軽 戦 車 | 26 |
26 |
12 |
12 |
――― |
――― |
中 戦 車 | 56 |
56 |
25 |
25 |
――― |
――― |
砲 戦 車 | 30 |
24 |
20 |
20 |
――― |
――― |
装 甲 車 | 16 |
16 |
12 |
12 |
――― |
――― |
四式自走砲 ホロ車
大東亜戦争後庸に、大口径の榴弾の威力を利用しての対戦車戦闘と、「戦車師団」の「機動砲兵」への装備用を目的として「九七式中戦車」の車体上に「三八式十五糎榴弾砲」を搭載した自走砲。
照準具は直接照準眼鏡で、目盛部分に改正を施した「九七式五糎七粍戦車砲用照準眼鏡」が装着されており、砲弾は車内に16発と車体後部に12発の合計28発を搭載している。また自衛と対空戦闘用に車内に「九七式車載重機関銃」1丁が搭載されている。
実戦での「四式自走砲」は、内地で昭和19年後半に「比島決戦」に参加するために、「第一自走砲中隊」の名称で12月8日に「四式自走砲」3両で部隊編成がなされ、12月22日に「比島」へ向けて出発している。「比島」の「ルソン」方面へ進出途中の昭和20年1月1日に「サンフェルナンド」にて敵襲のために砲1両と装備の多くを失い、「本部」・「四式自走砲」2両・「段列」よりなる第十四軍直轄の「第十四方面軍仮編自走砲中隊(中隊長−鷲見文男中尉)」に再編成かなされて、車両を失う3月まで「クラーク地区」の防衛戦闘に参加している。
生産数は不明であり、本土決戦でも10両前後が内地の決戦部隊に配備されており、写真では「戦車第四師団」の「戦車第二十八聯隊」に1両が配備(「自走砲中隊」ないし「本部」直轄)されているのが確認されている。
四式自走砲
比島決戦で米軍に捕獲された「第十四方面軍仮編自走砲中隊」の車両
★四式自走砲データー
全備重量 16300キロ
全 長 5550ミリ
全 幅 2330ミリ
全 高 2360ミリ
装甲防盾 前面25ミリ
側面20ミリ
上面12ミリ
高低射界 +20°〜−10°
方向射界 左右各3°
弾薬種 九二式榴弾
初 速 282メートル
最大速度 37キロ/時
登坂能力 1/2
越壕能力 2500ミリ
携行弾薬数 28発
乗 員 6名
無線機 車両無線機乙